相続税の税務調査(申告漏れ割合・申告漏れ財産)と実地調査の流れ 松本寿一税理士事務所

相続税の調査

相続税の実地調査の状況

平成27事務年度における相続税の調査状況 平成28年11月 国税庁報道資料を引用
課税庁側の事務年度(平成27年7月から平成28年6月)に実施された相続税の実地調査の状況。
相続税の調査は、一周忌以後に行われることが多いため、相続税の申告事績での数値等と直接対応関係はありませんがご参考までに。

申告額が過少であると想定されるものや、申告義務があるにもかかわらず無申告となっていることが想定されるものなどに対して実施された模様です。

平成27事務年度における相続税の調査状況
①実地調査件数 ②申告漏れ等非違件数 ③非違割合 ⑤重加算税賦課割合 ⑪申告漏れ1件当りの課税価格 ⑫申告漏れ1件当りの追徴税額
11,935人 9,761人 81.8% 12.8% 2,517万円 489万円
申告漏れ相続財産の金額・構成比(平成27事務年度)
土地 家屋 有価証券 現金・預貯金等 その他 合計
410億円 64億円 364億円 1,036億円 1,071億円 2,945億円
13.9% 2.2% 12.4% 35.2% 36.2% 100%

調査結果は、各種相続財産の漏れ・評価誤りや特例適用誤りが原因となることが多いかと思われますが、やはりと言いますか有価証券や現金・預貯金等の申告漏れが非常に多いと感じられます。事実認定の問題ですが、相続税調査においては、被相続人の財産(名義)のみならず、相続人名義の財産にさえ調査範囲が及ぶことも多々あります。

なお、報道資料では、資産運用の国際化に対処するための海外資産の調査事績や申告義務があるのに無申告であった調査事績など掲載されておりますが、割愛しております。

相続税の調査の流れ

相続税調査の過程

相続税の調査も、他の税目の税務調査と同様に、提出された申告書を部内資料などから検討を行い、非違が認められるもの想定される事案を調査対象とし、準備調査を行い要調査事項の抽出。
 臨宅調査をし、解明を要する事項があれば反面調査にて解明、その結果問題点・修正事項を抽出。
 そして、調査経過並びに調査結果を開示し、修正申告しょうようを行い、修正申告書の提出を受けることになります。
 最終、部内書類の作成を終え、一連の調査が終結せることになります。
 修正申告の増差税額により、加算税(過少申告加算税や重加算税)及び延滞税が賦課されることもあります。

相続税の調査は、通常は相続税の申告書の提出を行った所轄税務署となりますが、
 大口の脱漏が見込まれる事案は、場合によっては、国税局の資料調査課や査察部が調査を行う事になります。

現地確認 土地等が相続財産の場合、机上だけでなく、時として現地にて土地等の現況を目で確認する必要性があります。資産の性質上、何処かに動かし隠蔽することができないものですので、先祖名義のままで申告されなかったなどの場合以外、申告漏れと言うことはあまり考えられませんが、やはり多くは評価上の問題と思われます。

申告審理 調査対象の選定は、税務署内の部内資料やその他の資料を駆使し、生前の所得・資産の状況などから検討されることになりますが、やはり高額な相続税の事案の場合は調査対象となる確率は高いと思われます。

臨宅調査 様々な理由はありますが、基本的には、複数にて伺うことになります。臨宅調査では、時として申告漏れ財産を把握することもありましたが、内容は少々憚られますのでご容赦願います。

反面調査 銀行調査や証券会社など金融機関への調査が中心となりますが、金融機関だけに止まらずあらゆる事業者へ調査を行う場合があります。
 この反面調査は、反面先へ赴くことが基本となりますが、文書にて照会を行う場合もあります。このため、多くの照会文書が用意され、確認を要する必要事項が網羅されるようになっています。

課税庁に在籍した当時、銀行等の金融機関への反面調査を行いましたが、現在では、存在しないと思われる仮名預金や今でも存在すると思われる借名預金などでも、一つの端緒で申告漏れの預金等が把握できるものです。
 また、現在では発行機関はなくなりましたが、現物で所持すれば、容易に把握できないと思われる割引金融債などでも、伝票調査などから把握することができる場合があります。

また、相続税の特色として、申告後に新たな相続財産が見つかり、その財産を特定の相続人が取得し、取得しない相続人がいる場合でも、その取得しなかった他の相続人にも、新たな相続税の納税が生じる場合があります。
 これは、特定の相続人の取得割合が下がったとしても、相続税の総額自体(パイの大きさ)が増加することによる「はね返り」が生じるためであります。

特定の相続人の方が、預貯金を相続財産から除外し、後日判明した場合など、対課税庁の問題よりも相続人間での紛争を生じさせるだけであります。