市街地再開発事業の特色 松本寿一税理士事務所

市街地再開発事業の概要

市街地再開発事業は、第1種市街地再開発事業と第2種市街地再開発事業とに区分され、

第1種市街地再開発事業は、低層木造住宅等の密集地域において、その住宅等を除去、高層建築物を建築し、公共施設を整備、従前の居住者を新たに建築した高層建築物に収容することを前提として行われます。
 この事業は、従前の権利関係を「権利変換」という手法にて行われます。

第2種市街地再開発事業も、低層木造住宅等の密集地域において施行されますが、施行者が収用権を背景に用地の全面買収をし、その住宅等を除去、高層建築物を建築し、公共施設を整備する事業。
 上記と同様な事業ですが、新たな高層建築物の譲受け等を希望する者に、金銭給付に換え現物の物を給付する事業です。

第1種事業、第2種事業ともに、事業施行後の施設建築物の外観から同じように見えますが、規模や手法の違い、緊急性や法律関係の違いから明確に区分されます。

両事業の施行手続は、大別すると、
第1種市街地再開発事業は、「都市計画に関する手続」と「権利変換に関する手続」に区分され、
第2種市街地再開発事業は、「都市計画に関する手続」と「管理処分に関する手続」に区分されることになります。

第1種市街地再開発事業のイメージ

※従前地の土地等所有者甲から丁と借家人戊までが、完成した施設建設物の権利床を取得・収容され、生み出された保留床の処分代金で建設代金を賄うことになります。

土地区画整理事業が、平面的に土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業を行うことに対し、市街地再開発事業は施設建築物を給付することから立体換地とも称されます。

市街地再開発事業の税務

法令にて投網をかけられ、建築制限を受けるに至った時点から施設建築物建築完了までの間に、実に様々な税制が関係してまいります。

市街地再開発事業が施行された結果、土地等建物の財産権に対する補償は権利変換等(※)により扱われることになりますが、従前土地等の明け渡し、物件等の移転など付随的な損失については別途補償されることとなります。
※第1種市街地再開発事業による権利変換での従前資産と従後資産との差額は、交付又は徴収清算金を通じ処理されることになります。

この損失補償は、実に様々な各種名目で補償されるますが、基本的に対価補償ではありません。
が、取扱いで移転補償金など対価補償として扱うことができる場合があります。
 この損失補償に対する税務は、収用等事業の頁にて記述しているとおり総合課税の各種所得となります。

この事業においても譲渡所得に対する税制面では、譲渡益から控除する5,000万円特別控除の制度と交換処分等に伴い資産を取得した場合の計算特例の制度が設けられています。
 特に第1種市街地再開発事業では、従前の地権者等は従後資産へ収容されることが前提となっていますので、5,000万円の特別控除は特定の場合のみ適用され、代替資産の特例計算を適用するまでもなく、従後資産に見合う従前資産の部分は譲渡がなかったものとされます。

全てにおいて重要ではあることに違いはありませんが、この事業においては、損失補償に係る税務処理と第1種市街地再開発事業であれば、権利変換にて取得した資産の取得価額の税務処理(引継価額の計算)が個人の主観ではありますが最重要項目であると思われます。

本事業に係る税務は、複雑かつ範囲が広く全てを掲載できません。譲渡所得に対する税務以外にも処理をしなければならない損失補償の税務もあり、個別具体的事例につきましては専門家にご相談されますようお願いいたします。

下記は、補償金の課税上の取扱い」として公開されている通達ですが、ただしの文言も多く、事業施行者が下記の文言どおりの項目を使用してくれるとは限りません。
 通常の公共事業と比べ、市街地再開発事業では特殊な名称も使われることもあります。

公共事業に係る補償金の課税上の取扱い
補償金の種類 課税上の取扱い
①対価補償金  譲渡所得の金額又は山林所得の金額の計算上、収用等の場合の課税の特例の適用がある。
②収益補償金  当該補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。
 ただし、33-11により収益補償金として交付を受ける補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合がある。
③経費補償金 (イ)休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、当該補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。
(ロ)収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(棚卸資産等を除く。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。
 ただし、33-13により、経費補償金として交付を受ける補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合がある。
④移転補償金  補償金をその交付の目的に従って支出した場合には、当該支出した額については、所得税法第44条《移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入》の規定が適用される。
 ただし、33-14又は33-15により、引き家補償の名義で交付を受ける補償金又は移設困難な機械装置の補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合がある。また、33-30により、借家人補償金は、対価補償金とみなして取り扱う。
⑤その他対価補償金の実質を有しない補償金 その実態に応じ、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。ただし、所得税法第9条第1項《非課税所得》の規定に該当するものは、非課税である。

実務においては、収用証明書などで特例の適否を判断し、支払調書に記載がある補償項目並びにその金額に基づき所得金額の計算を行うこととなりますが、支払調書に記載ある補償項目を、機械的に当てはめ処理して行くだけでは確実ではないこともあり得ます。

といいますのも各種補償金は、一定の補償基準に基づき事業施行者等の算定に基づくものでありますが、この金額を算定するには相当量の書類が作成され、かつ細分化した補償項目に分け補償金は算定されています。
 そして、この算定された補償金に基づき最終的に支払調書に集約されていることになります。

土地等の対価補償については分離課税に譲渡所得、建物移転補償については一時所得(※)、など概ね区分し処理できそうですが、場合によっては補償項目の詳細を検討しなければ処理を誤ることもあります。
(※ただし対価補償として取扱われる場合もあり、つまり所得区分が変わることです)

課税庁に在籍した当時、多くの収用等事業の事案の処理や事前協議の事務などに携わり、また自身が市街地再開発事業を経験するなど、一般的な不動産の譲渡には見られない用語・法律関係・税務処理があり、特に収用等の課税関係は複雑であると実感しております。

事前協議制度

本事業も、課税庁との事前協議が行われ、収用等の特例が適用されるものとして処理されることとなります。
事前協議制度についての記述は収用等事業の頁に記載しております。