収用等事業の概要等と税務・特例 松本寿一税理士事務所

収用等事業の特別控除と特例計算

収用等事業の概要

公共事業等が施行されたことにより補償金を収受され、収用等の特例に該当する前提ですが、事業施行者から収用証明書などとともに、下記のような支払調書を手交されると思われます。一例であり、補償金の項目は事業施行者により異なる場合もあり得ます。

不動産等の譲受けの対価の支払調書(公共事業)

譲渡所得に対する税制面では、譲渡益から控除する5,000万円特別控除の制度と代替資産を取得した場合の特例計算の制度が設けられています。

特別控除と代替特例の差異
収用の特別控除を適用 代替特例を適用
代替資産を取得する必要なし(取得しても可) 代替資産を取得する必要あり
譲渡益5,000万円以上だと課税 代替資産>対価の金額であれば課税されない
新たに取得した資産は計算対象外 新たに取得した資産の取得価額が圧縮される
免税(所得税等以外の負担増となる場合あり) 課税の繰延
所得計算は簡単 所得計算は煩雑

両特例制度の性質を記述しておりますが、個々の場合により課税が生じたりしますので含みおきください。
 何れを選択されるかは、お考え次第かと思いますが、短期的な事だけでなく、将来を見越して検討をして頂きますように。

収用等事業の税務

土地等の財産権に対する補償は、金銭や物にて補償(いわゆる対価補償)され、従前土地等の明け渡しや物件等の移転など付随的な損失については別途補償されることとなります。

この損失補償は、実に様々な各種名目で補償されますが、基本的に対価補償ではありません。
 課税の特例の適用が受けられるのは資産の対価としての補償金だけであり、このため、資産の対価以外の補償金については、特例の適用はありません。各種所得の金額の計算が行われ総合課税とされます。
※各種所得は、事業所得・不動産所得・一時所得・雑所得などが考えられます。

補償金の税務の取扱い
補償項目 税務の取扱い
対価補償 分離課税の譲渡所得
損失補償(上記支払調書では、その他の補償金とされるもの) 総合課税の事業・不動産・一時・雑所得など。(対価補償として取扱われる場合もあります。)
累進税率であり、個々により税額が異なることになります。

補償金の課税上の取扱いにつていは市街地再開発事業の頁に掲載しております

収用の特別控除を適用する場合の所得計算

所得計算
対価補償金の交付を受けた場合

①収入金額=譲渡収入

②必要経費=譲渡資産の取得費+譲渡費用

③特別控除=5,000万円(譲渡益が上限)

④所得金額=①-②-③

分離課税とならない資産に補償金の交付を受けた場合
上記④の金額から ⑤総合課税の「50万円の特別控除」を控除(長期分・短期分合計)

⑥所得金額=④-⑤ 総合課税の総所得金額に含まれます。長期分は⑥×1/2

申告手続き

①所得税申告書の特例適用条文欄に「措置法33条の4」と記載

②申告書とともに「譲渡所得計の内訳書」の提出

「収用証明書」「買取等の申出証明書」「買取等の証明書」の3点セットが必要です。

取得資産の取得価額は、代替特例を適用していませんので、引継計算を行うことはなく実際の取得価額になります。

収用の特別控除を適用する場合に記載する「譲渡所得の内訳書」第3面の抜粋

収用の特別控除を受ける場合の譲渡所得の計算


収用代替特例を適用する場合の所得計算

所得計算
 上記、特別控除の適用する場合と同様に①、②、③の計算を行いますが、代替資産の金額を求める必要があります。

 譲渡資産>代替資産であれば、所得が生じ、

 譲渡資産<代替資産であれば、所得は生じません。

申告手続き

①所得税申告書の特例適用条文欄に「措置法33条」と記載

②申告書とともに「譲渡所得の内訳書」の提出

「収用証明書」及び取得した代替資産の登記事項証明書などの提出

代替資産の取得は、収用等のあった日から2年以内に取得することを原則としますので、収用等をされた翌年以降に代替資産を取得する場合は、予定資産等を記した「買換(代替)資産の明細書」の提出を要します。

原則期限の2年以上の取得期限の延長の特例や先行取得の場合にもこの特例が適用される場合があります。

取得資産の取得価額は、実際の取得価額ではなく、引継計算を行う必要があります。

この代替特例を適用した場合、譲渡所得の金額は、この特例を適用しない場合に比べ圧縮(少なく)することができますが、代替資産の取得価額の金額も引継計算(圧縮計算)を行わなければならず、事業所得等の金額の計算上、必要経費である減価償却費が減額となり、長期にわたる納税額の増加及び代替特例を適用した資産を譲渡した場合には、譲渡益の増加となるという側面もあります。

取得資産に係る特別償却や割増償却などの制度も、重複適用することができません。
 あくまで課税の繰延制度ですので、慎重に判断される必要があります。

収用代替特例を適用する場合に記載する「譲渡所得の内訳書」第4面の抜粋

収用等代替特例を受ける場合の譲渡所得の計算

実務においては、収用証明書などで特例の適否を判断し、支払調書に記載がある補償項目並びにその金額に基づき所得金額の計算を行うこととなりますが、支払調書に記載ある補償項目を、機械的に当てはめ処理して行くだけでは確実ではないこともあり得ます。

といいますのも各種補償金は、一定の補償基準に基づき事業施行者等の算定に基づくものでありますが、この金額を算定するには相当量の書類が作成され、かつ細分化した補償項目に分け補償金は算定されています。
 そして、この算定された補償金に基づき最終的に支払調書に集約されていることになります。

土地等の対価補償については分離課税の譲渡所得、建物移転補償については一時所得(※)、など概ね区分し処理できそうですが、場合によっては補償項目の詳細を検討しなければ処理を誤ることもあります。
(※ただし対価補償として取扱われる場合もあり、つまり所得区分が変わることです)

課税庁に在籍した当時、多くの収用等事業の事案の処理や事前協議の事務などに携わり、また自身が市街地再開発事業を経験するなど、一般的な不動産の譲渡には見られない用語・法律関係・税務処理があり、特に収用等の課税関係は複雑であると実感しております。

事前協議制度

個人等の所有資産が、一定の要件を満たす公共事業等のために買取等がされた場合、税制面で様々な特例制度が設けられています。これは、公共事業の円滑な推進・施行が行えるよう税制面で助成することを目的とし、租税特別措置法に規定されています。

収用の特別控除や代替特例など、各種特例制度は、事業施行者等の発行する一定の「証明書」を添付することにより適用されますので、各種特例制度は「証明書」がいかに適正に発行されるかにかかっています。

万が一、不適切な証明書が事業施行者等により発行され、交付を受けた納税者が、その証明書に基づき譲渡所得の課税の特例を適用し申告を行った場合、後日、申告内容の誤りを指摘されかねません。

そのため、事後の問題発生防止のため、事業施行者と課税庁(税務署・国税局・国税庁)が事前に協議し、当該公共事業等が、収用等の課税の特例の対象事業に該当するか否かについて確認を行う制度が、「事前協議制度」と言われるものです。

事前協議は対象となる公共事業等・事前協議先・事前協議の時期などで区分されますが、紙幅の関係で割愛させて頂きます。
 また、事前協議は公共事業等の施行者が一定の関係書類を添え、一定の書面により申出を行う事になります。

そして、事前協議が完了後、その結果は事業施行者の通知されることになります。
 支払調書に事前協議済みと記載されるものも見られます。
 なお、事業完了後でも、適正な事業であったかどうかの「事後監査」が行われることもあり得ます。