不動産所得の概要及び所得の計算方法 松本寿一税理士事務所

不動産所得の概要

不動産所得とは、地代、家賃、権利金などのように不動産の貸付けによる所得や地上権、永小作権、借地権等の設定などによる所得、船舶、航空機の貸付けによる所得を言います。

部屋を貸す行為は同じでも、下宿やホテルなど、単に不動産利用だけでなく、食事を提供、人的役務の提供が主であるような場合は、不動産所得ではなく、事業所得や雑所得として扱われます。(個人の場合)

土地を賃貸させ収受する、いわゆる借地権等の設定の対価としての権利金は、分離課税の譲渡所得(一定の場合)とされるものを除き、不動産所得とされます。

不動産所得の収入計上時期

所得税法では、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」と定められています。

これは、不動産所得の収入は未収であっても定められた時期に計上し、その収入の内容は金銭だけに止まりませんということになります。が、具体的な不動産所得の総収入金額に算入すべき時期となりますと、次のように取り扱われます。

不動産所得の総収入金額に算入すべき時期
区分 収入計上時期
① 契約又は習慣により支払日が定められているもの 定められた支払日
② 契約又は習慣により支払日が定められていないもの イ 請求があったときに支払うべきものとされているもの・・・請求があった日
ロ イ以外のもの・・・支払を受けた日
③ 賃貸借契約の存否の係争等に係る判決、和解等により不動産の所有者等が受けることとなった既往の期間に対応する賃料相当額 イ 賃貸料の額に関する係争の場合において、賃貸料の弁済のため供託された金額・・・①又は②に掲げる日
ロイ以外・・・判決、和解等のあった日
④ 不動産等の貸付けをしたことに伴い一時に収受する頭金、権利金、名義書換料、更新料等 イ 貸付けに係る資産の引渡しを要するもの・・・引渡しのあった日(ただし、契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。)
ロ貸付けに係る資産の引渡しを要しないもの・・・契約の効力発生の日
⑤ 敷金、保証金 イ不動産等の貸付期間の経過に関係なく返還を要しないこととなっている部分の金額・・・④に掲げる日
ロ不動産等の貸付期間の経過に応じて返還を要しないこととなる部分の金額・・・契約に定められたところにより、返還を要しないこととなった日
ハ 不動産等の貸付期間が終了しなければ返還を要しないとが確定しない部分の金額がある場合において、その終了により返還を要しないことが確定した金額・・・貸付が終了した日
ニ不動産等の貸付期間の経過に関係なく全額返還するもの・・・収入金額に算入しない

賃貸料が未収である、供託され実際収受していないとして、収入計上がされていないケースを散見しますが、あくまで収入すべき時期は、上記のように取り扱われますので未収入金として申告を要します。

不動産所得の必要経費算入時期

同様に法令では必要経費算入につき、必要経費に算入すべき償却費以外の費用で、その年において債務が確定しているものとは、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる要件のすべてに該当するものとするものとされています。

(1)その年12月31日(年の中途において死亡し又は出国をした場合には、その死亡又は出国の時。以下同じ。)までに当該費用に係る債務が成立していること。
 (2)その年12月31日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる 事実が発生していること。
 (3)その年12月31日までにその金額を合理的に算定することができるものである こと。

不動産所得の一般的な必要経費については、次のようなものがあります。
項目 この項目に分類される具体例
給料賃金 賃貸している建物などの管理や賃貸料の集金に従事している使用人に支払う給料
減価償却費 賃貸している建物、建物附属設備、構築物などの償却費
※ 取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、減価償却をしないでその使用した年以後3年間の各年分において、その減価償却資産の全部又は特定の一部を一括し、一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1の金額を必要経費にすることができます。
貸倒金 既に収入金額とした未収賃貸料(事業として行われる不動産の貸付けによるものに限ります。)などのうち、回収不能となった金額
※ 事業として行われていない不動産の貸付けによる未収賃貸料が回収不能となった場合は、取扱いが異なります。
地代家賃 賃貸している建物、倉庫等の敷地の地代
借入金利子 賃貸している建物等を取得するために要した借入金の利子
土地等の取得に要した借入金利子がある場合、特別な取扱いがあります。
固定資産等の損失 賃貸している建物等の取壊しや災害による滅失などの場合の損失
※ 事業として行われていない不動産の貸付けの用に供している建物等の取壊し、滅失などの損失については取扱いが異なります。
租税公課 賃貸している土地、建物等についての固定資産税、事業税、不動産取得税、登録免許税、印紙税及び税込経理方式による消費税等納付額などの税金
※ 所得税、相続税、住民税、国民健康保険税、国民年金の保険料、国税の延滞税・加算税、地方税の延滞金・加算金、罰金、科料、過料、交通反則金などは必要経費になりません。
損害保険料 賃貸している建物等についての火災保険料
修繕費 賃貸している建物等についての修繕のための費用
※ 資産の価額を増したり、使用可能期間を延長したりするような支出は、そのまま必要経費になるのではなく、原則として、資本的支出として一の減価償却資産を取得したものとみなして、その資本的支出額の本年中の使用月数に対応する減価償却費を必要経費にします。
消耗品費 ①帳簿、文房具などの消耗品購入費、②使用可能期間が1年未満か取得価額が10万円未満の什器備品の購入費
※ 取得価額が10万円未満であるかどうかは、税込経理方式又は税抜経理方式に応じ、その適用している方式により算定した金額によります。
雑費 事業上の費用で他の経費に当てはまらない経費

一般的な必要経費ではありませんが、次のようなものもあります。
項目 この項目に分類される具体例
割増償却 減価償却費計算の特例の一つであり、不動産所得を有する方が対象となります。
通常の償却計算に加え一定の割増率による償却費を加算し、取得資産の早期の費用化が行えます。
控除対象外消費税額等 「税抜経理方式」を採用している場合、課税仕入等の税額として、課税標準に係る消費税額から控除できるのは、課税売上割合が95%以上の場合に限られ、これ以外の場合は、課税売上に対応する部分の金額のみ控除することになります。
この結果、控除できない税額が生じます。つまり経理内に滞留する消費税が生じることとなります
非課税売上の多い業種、例えば医業の方・居住用不動産賃貸業や非課税資産土地等の売却がある方など。

別頁に青色申告決算書(不動産所得用)及び白色申告用の収支内訳書(不動産所得用)を掲載しております。