不動産所得者の税務調査と総合調査(所得税・資産税・法人税) 松本寿一税理士事務所

その他所得の税務調査

課税庁が言う「その他所得」とは、不動産所得や金融商品(海外取引を含む)などによる所得を対象とするものでありますが、「その他所得の税務調査」となりますとやはり、不動産所得者に対するものが中心であると思われます。

不動産貸付にも、駐車場数台から建物数棟にも及ぶ貸付まで、その業態や規模等様々であり、地域性や慣習などにも影響されることがあります。

不動産所得の計算は基本的に、他の所得区分のものと同様であり、賃貸料収入から必要経費を差引き、所得金額を求めることに違いはありません。
 また、会計処理においても同様ではありますが、月々の記帳はほぼ定型処理が中心で、債権・債務並びに入出金につき適正に記帳を行えば、特に処理を誤ることはないと思われます。
 ただ、物件取得時や資産の転用、また譲渡時などは注意は必要かと思います。

税務調査では、他の所得や他の税目と同様な観点から選定され実施されることになりますが、申告書や決算書等いわゆる部内資料以外に、不動産という性質から部外の情報が入手しやすいという特徴があります。
 貸付物件を移動させ隠蔽することもできませんし、外形上も把握しやすく、登記簿等の公簿やその他情報からも利用状況などが推測できます。

税務調査の内容も極言すれば、収入金額の計上漏れがないか、必要経費の金額は適正か、家事関連費の処理や家事費が含まれていないかにつきますが、

しかし、中には豪快と言いましょうか大胆な申告をされる方もいらっしゃいます。
 遠隔地の物件の収入を除外、故人名義である物件の収入を除外、賃貸料の圧縮などなど個人情報、守秘義務の関係で個別具体的な事例をご紹介することが憚れますが、不適切な申告・故意の脱漏は、ものの性質上発覚する可能性が高く、適正な申告をお願いしたいものです。
 決して納税意識の高揚を意図するような大それたことをお伝えする訳ではありません。 

不動産所得の申告内容を検討する要する事項。青色申告決算書に準じ記載しております。
科目 この科目の検討内容
賃貸料 賃貸収入の検討はもちろんのこと付随的な収入の有無。一時的、短期貸付に係る収入の有無。
礼金・権利金・更新料 礼金(保証金)など返還を要しない金額が計上されているか。更新料、承諾料・共益費の有無。
租税公課 固定資産税は貸付に対応するものか、家事用部分が含まれていないか。
損害保険料 積立部分の保険料の必要経費計上の有無。
修繕費 資本的支出となる金額が含まれていないか。
減価償却費 耐用年数や償却方法が適正か。非業務部分の減価償却費が含まれていないか。償却の特例(割増償却)の要件が具備されているか。譲渡所得の特例適用した資産の場合、取得価額は適正に引継計算が行われているか。
借入金利子 非業務用部分の金額が含まれていないか。所得金額が赤字で土地等を取得するための借入金利息がある場合、損益通算対象外の計算は適正か。
地代家賃 支払先が同族会社である場合や親族である場合、適正なものか。
給与賃金 支払金額は適正か。
管理費用 親族らが主催する同族会社への支払いの場合、支払額は適正か。
仲介手数料
その他の経費 上記の青色申告決算書に分類されていない科目であるが、家事分などが含まれていないか。
専従者給与 事業的規模であるか。専従者給与の金額は適正か。
青色申告特別控除額 事業的規模であるか。複式記帳されているか。貸借対照表の作成及び期限内の申告が要件。
貸倒金 適正な処理がなされているか。※
固定資産等の損失 適正な処理がなされているか。※

※事業的規模であるか否かにより取扱が異なります。

また、消費税の課税事業者の場合、消費税についても、個々の取引について検討がなされることになります。
 賃貸収入の課税売上げと非課税売上げの確認、課税仕入れついての適否、簡易課税を選択している場合のみなし仕入率の適用など。

総合調査

課税庁では、基本的に所得税や資産税の各税目ごとに人を配し、各税目に係る事務を所掌しております。一般的に所得税・消費税は個人課税部門、譲渡所得・相続税・贈与税は資産課税部門、法人税・消費税は法人課税部門が担当し、税務調査も担当部門が行うことになります。
 特定の税務署では、各税の担当者をグループ化している場合もあります。

納税者のなかには、貸付不動産を個人で所有され、管理会社(同族法人)もあり、相続が発生したという場合など所得税の申告・法人税の申告・相続税の申告をされることがあります。

もし、各税目の税務調査となりますと、上記の各部門それぞれが担当することになります。
 基本的に各部門の担当者は他の税目を扱いませんし、調査は他の税目の調査の日程に影響をされる事はありません。場合によっては、3年連続で各税目の調査と言うこうもあり得ます。

これでは、調査を受忍される納税者の方の負担になるであろうと言うことから、所得税・法人税・相続税の同時調査(総合調査)が行われることがあります。
 今まででも、所得税担当と法人税担当や資産税担当と法人税担当などが連携し、税務調査が行われることは多々ありましたが、この3税が調査対象となる場合は、上記のような前提でありますので、それほど多くはありませんが事務効率を図る目的です。

しかし、総合調査ともなりますと、納税者の方は相当な負担となるでしょう。一挙に最低3名なりの担当者から概要なり、申告内容等の聴取や帳票類の提示を求められることになる訳ですから、気が休まることも無いかも知れません。

また担当者においても、調査着手前には相当綿密な打ち合わせを行っていたとしても時間的な制約からなかなか思うように事が進まない、本来なら単独であるべき各税目の調査が他の税目の調査に影響・関連する場合もあり、もどかしく感じることがあるのは確かであります。
 一般的に総合調査の対象となる場合、個々の事案により異なりますので、敢て何を重点的に調査が行われるかは申しませんが、十分な準備等をされることが重要かと。