平成19年度の税制改正により、減価償却制度が大きく変わりました。
以下の記述は、国税庁「平成19年度 法人の減価償却制度の改正のありまし」より抜粋したものに加筆等おこなっております。なお、改正後の減価償却制度は、個人に係る所得税も同様に適用されます。(一部、適用関係に差異があります)
(語句解説) 新定率法で使われる 調整前償却額 ・ 保証率 ・ 改定取得価額 ・ 改定償却率などの用語は最下部を参照下さい。
① 平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産(令48の2、61)
償却可能限度額(取得価額の95%相当額)及び残存価額が廃止され、耐用年数経過時点に「残存簿価1円」まで償却きるようになりました。
② 平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産(令48、61)
従前の償却方法については、その計算の仕組みが維持されつつ、その名称が旧定額法、旧定率法等と改められた上、前事業年度までの各事業年度においてした償却費の累積額が、原則として、取得価額の95%相当額(従前の償却可能限度額)まで到達している減価償却資産については、その到達した事業年度の翌事業年度(平成19年4月1日以後に開始する事業年度に限られます。)以後の各事業年度において、次の算式により計算した金額を償却限度額として償却を行い、残存簿価1円まで償却できるようになりました。
(算式)・・・償却限度額=〔取得価額-(取得価額の95%相当額)-1 円〕×償却を行う事業年度の月数/60
減価償却資産の取得日 | 償却可能限度額(残存簿価) | 償却方法 |
---|---|---|
平成19年3月31日以前 | 取得価額の95%相当額(残存簿価5%相当額)上記到達後は残存簿価1円まで償却可能 | 旧定額法、旧定率法、旧生産高比例法など (上記算式のとおり) |
平成19年4月1日以後 | 残存簿価1円 | 定額法、定率法、生産高比例法など |
(注)平成20年4月1日以後に締結する所有権移転外リース取引の契約によって、その賃借人である法人が取得したものとされる「リース資産」については、「リース期間定額法」が適用されます。なお、国外リース資産を賃貸する法人に適用される従前の「リース期間定額法」(改正後「旧国外リース期間定額法」)は、平成20年3月31日以前に締結するリース取引の契約に係るものに適用されます。
③ 新たな定率法の導入
新たな定率法の導入によって、定額法の償却率の原則 2.5倍に設定された「定率法の償却率」(耐用年数省令別表第十に規定)が適用され、従前の制度に比して、早い段階において多額の償却を行うことが可能になりました(令48の2)。
耐用年数省令別表第十
耐用年数省令別表第十においては、新たな定額法に係る「定額法の償却率」に加え、新たな定率法の償却限度額の計算を行う際に、その算定の基礎となる「定率法の償却率」、「改定償却率」及び「保証率」がそれぞれ規定されています。
なお、「平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産についての償却率表」(旧定額法・旧定率法)は耐用年数省令別表第九に規定されていますが、「旧定額法の償却率」と新たな「定額法の償却率」の定め方が異なります。
(注) 法人の事業年度が1年に満たない場合(設立1期目、半期決算など)は、次の算式により算定した償却率(小数点第3 位未満の端数は切り上げます。)を使用して当該事業年度の償却限度額を計算します(耐用年数省令5②③)。 なお、「保証率」は算定し直すことはありませんので、事業年度が1年に満たない場合の「償却保証額」と比較する償却額は月数調整前の償却率を使用して計算することとなります
(算式)・・・(算定償却率)=当該減価償却資産の法定耐用年数に応ずる「定額法の償却率」、「定率法の償却率」又は「改定償却率」×当該事業年度の月数/12
新たな定額法
新たな定額法は、減価償却資産の取得価額に、その償却費が毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた「定額法の償却率」(耐用年数省令別表第十に規定)を乗じて計算した金額を、各事業年度の償却限度額として償却を行うもので、耐用年数経過時点において残存簿価1円まで償却できます(令48の2①一)。
○ 定額法の償却限度額の計算式
(定額法の償却限度額)=(取得価額)×(耐用年数省令別表第十の「定額法の償却率」)
【設例】取得価額1,000,000 円、耐用年数10年の減価償却資産の各年の償却に係る計算は、次のとおりとなります。
(注) 10年目における計算上の償却限度額は100,000 円ですが、残存簿価が1円になりますので、結果として、実際の償却限度額は99,999 円になります。
年数 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
期首簿価 | 1,000,000 | 900,000 | 800,000 | 700,000 | 600,000 | 500,000 | 400,000 | 300,000 | 200,000 | 100,000 |
償却限度額 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 99,999 |
期末簿価 | 900,000 | 800,000 | 700,000 | 600,000 | 500,000 | 400,000 | 300,000 | 200,000 | 100,000 | 1 |
旧定額法との比較、償却限度額のみを記載します。10年で償却できず、11年目に5万円の償却を行います。 | ||||||||||
旧償却限度額 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 |
新たな定率法
新たな定率法は、減価償却資産の取得価額に、その償却費が毎年一定の割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた「定率法の償却率」(耐用年数省令別表第十に規定)を乗じて計算した金額(調整前償却額)を事業供用1年目の償却限度額として償却を行い、2年目以後は、当該資産の期首帳簿価額(取得価額から既にした償却費の累積額を控除した後の金額)に「定率法の償却率」を乗じて計算した金額調整前償却額)を各事業年度の償却限度額として償却を行います。
○ 定率法の償却限度額の計算式〔(調整前償却額)≧(償却保証額)の場合〕
(定率法の償却限度額)=(期首帳簿価額)×(耐用年数省令別表第十の「定率法の償却率」)
(下記説例では1年目から7年目までの期間の計算)
その後、各事業年度の「調整前償却額」が、当該減価償却資産の取得価額に「保証率」(耐用年数省令別表第十に規定)を乗じて計算した金額である「償却保証額」に満たない場合は、原則として、その最初に満たないこととなる事業年度の期首帳簿価額(取得価額から既にした償却費の累積額を控除した後の金額)である改定取得価額に、その償却費がその後毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた「改定償却率」(耐用年数省令別表第十に規定)を乗じて計算した金額を、各事業年度の償却限度額として償却を行うもので、耐用年数経過時点において残存簿価1円まで償却できます(令48の2①二)。
○ 定率法における償却限度額の計算式〔(調整前償却額)<(償却保証額)の場合〕
(定率法の償却限度額)=(改定取得価額)×(耐用年数省令別表第十の「改定償却率」)
(下記説例では8年目から10年目までの期間の計算)
【設例】取得価額1,000,000 円、耐用年数10年の減価償却資産の各年の償却に係る計算は、次のとおりとなります。
定率法の償却率 0.250 保証率 0.04448 改定償却率 0.334
(注)調整前償却額「8年目の上から2列目」(133,485 円×定率法の償却率0.250≒33,371 円)が償却保証額「各年の3列目」(取得価額1,000,000 円×保証率0.04448 = 44,480 円)に満たないこととなる8年目以後の各年は、改定取得価額「8年目の期首簿価」(133,485 円)に改定償却率「別表第10に定める」(0.334)を乗じて計算した金額44,583 円が償却限度額となり、10年目において、残存簿価1円まで償却できます(10年目においては残存簿価1 円となるために、44,318 円が償却限度額になります)。
年数 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
期首簿価 | 1,000,000 | 750,000 | 562,500 | 421,875 | 316,407 | 237,306 | 177,980 | 133,485 | 88,902 | 44,319 |
償却限度額 (調整前償却額) |
250,000 | 187,500 | 140,625 | 105,468 | 79,101 | 59,326 | 44,495 | 33,371 | 25,028 | 18,771 |
償却保証額 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 | 44,480 |
改定取得価額 ×改定償却率 |
– | – | – | – | – | – | – | 44,583 | 44,583 | 44,318 |
期末簿価 | 750,000 | 562,500 | 421,875 | 316,407 | 237,306 | 177,980 | 133,485 | 88,902 | 44,319 | 1 |
旧定率法との比較、償却限度額のみを記載します。10年で償却できず、償却終了まで13年間かかります。 | ||||||||||
旧償却限度額 | 206,000 | 163,564 | 129,869 | 103,116 | 81,874 | 65,008 | 51,617 | 40,984 | 32,541 | 25,837 |
手続き
(1) 減価償却資産の償却方法の選定
法人は、平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の償却方法について、平成19年3月31日以前に取得をされたものと区分された上で、構築物、機械及び装置等といった資産の種類ごとや事務所又は船舶ごとに選定し、確定申告書の提出期限までに、その有する減価償却資産と同一の区分に属する減価償却資産に係る当該区分ごとに採用する償却方法を記載した「減価償却資産の償却方法の届出書」を納税地の所轄税務署長に届け出ることとされています(令51①②)。
(2) 償却方法のみなし選定
平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産について、「旧定額法」、「旧定率法」又は「旧生産高比例法」を選定している場合において、平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産で、同日前に取得をされたとしたならば、平成19年3月31日以前に取得をされた資産と同一の区分に属するものについては、上記(1)の届出書を提出していないときは、それぞれが選定していた償却方法の区分に応じた選定をしたとみなされ、それぞれ「定額法」、「定率法」又は「生産高比例法」を適用することとなります(令51③)。
(3) 法定償却方法
「減価償却資産の償却方法の届出書」の提出をしていない場合で、上記(2)に該当しないときには、平成19年4月1日以後に取得をされた減価償却資産の償却方法は、法定償却方法を適用することとなります(令53)。したがって、例えば、機械及び装置の法定償却方法は定率法ですので、定率法以外に選定可能な償却方法として定額法の選定を希望される場合は、上記(1)の届出書を提出する必要があります。
なお、今回の制度改正に伴う償却方法の届出に関する取扱いは次のとおりとなります。
△・・・要届出 ◎・・・届出不要 | 平成19年4月1日以後の取得資産で 同一の区分に属するものと同視できるもの |
||||
定額法 | 定率法 | 生産高比例法 | その他 | ||
平成19年3月31日 以前の取得資産 |
旧定額法 | ◎ | △ | △ | △ |
旧定率法 | △ | ◎ | △ | △ | |
旧生産高比例法 | △ | △ | ◎ | △ | |
その他 | △ | △ | △ | △ |
新定率法による
調整前償却額とは =償却限度額のことで、減価償却資産の取得価額に、その償却費が毎年一定の割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた「定率法の償却率」を乗じて計算した金額。今までと同様、通常に計算を続けた償却計算
償却保証額とは 減価償却資産の取得価額に保証率を乗じた金額で、各事業年度の償却費の金額は、この金額を下回らないよう規定されている。
保証率とは 耐用年数省令別表第十に規定される率
改定取得価額とは 取得価額から償却累積額を控除した後の金額で調整前償却額 < 償却保証額 となった時点の価額
改定償却率とは 耐用年数省令別表第十に規定される率で調整前償却額 < 償却保証額 となった時点から改定取得価額の金額にこの率を乗じることになります。